鍼灸とは
中国の伝統医学(中医学・東洋医学のルーツ)に基づく鍼や艾(もぐさ)などの道具を使う療法で、漢方薬と推拿とあわせて3大中国伝統療法と言われ、その歴史は数千年に及びます。体の特定の部位を石などで刺激(砭石(へんせき))したり、皮膚を焼いたりすることにより、治療効果があることが、古代の中国で発見されました。前者が現在の鍼、後者が灸に発展し、「体の特定の部位」が現在の経穴(ツボ)です。その施術は現存する中国最古の医学書「黄帝内経(こうていだいけい)」に則って分析した上で、組み立てられます(弁証論治)。「黄帝内経」は『素問』:基礎理論と、『霊枢』(別名『鍼経』):実践的、技術的内容の二部に分かれます。日本における鍼灸の歴史は以下の通りです。
- 5〜6世紀頃 中国から朝鮮経由で中医学(鍼灸・推拿・漢方薬)がもたらされる
- 古来からの治療法と結びつき、日本独自の発展を遂げる
- 戦国時代 「蘭学」(のちの西洋医学)が伝来し、「漢方」(=東洋医学)として区別
- 19世紀頃 「蘭学」が次第に勢力を持つ
- 明治時代初期、西洋化の流れに押され、「蘭学」が正式な医学となる
- 1874年 西洋医学の医師免許、開業許可制度ができる
医師免許があれば「漢方」医療(東洋医学の治療全般)を行える
鍼灸、あん摩マッサージ指圧は、盲人の職業として残される
現在日本では、3年制の専門学校または大学で学んだ後、国家試験に合格すれば「鍼師(はりし)」と「灸師(きゅうし)の国家資格が取得でき、それぞれ鍼と灸による治療を行うことができます。しかし学校で学ぶ理論は西洋医学寄りのため、東洋医学的な治療を行うには学校以外の場所で学ぶ必要があります。また、日本では西洋医学の医師免許があれば、特別な訓練なしに鍼や灸(漢方薬も)を扱っていいことになっています。一方、中国や韓国では厳格に区別されていて、中医師や漢医師にしか鍼や灸、漢方薬は扱えません。
鍼灸の特徴
西洋医学とは異なる考え方や概念(中医学/東洋医学理論)で病気や不調に対処します。その理論は「黄帝内経」を基礎とするもので、様々なバランスが崩れていることを不調の原因と考えます。それは体内の特定の臓器や器官だけを見るのではなく、季節などの自然現象に体が対応できているか、臓器同志の力関係のバランスが取れているか、生理物質がスムーズに流れているか、病理産物が存在しないかなど、事細かに分析します。主に「気血水」「陰陽」「五行」という表現で表され、そのどこに不調の元となるバランスの崩れがあるかを見て治療方針を立てます。例えば、「腎陽虚」という東洋医学の病名があります。これは「五行」の「腎」の、「陰陽」の「陽」が不足(虚)していることを表します。体が冷えやすかったり、泌尿器系の症状が現れたりするのですが、西洋医学の「乏尿」という排尿量が著しく減少する病気と、1対1で対比する関係にはありません。同じ「乏尿」でも東洋医学の「肝」に問題がある場合もあり、治療法は全く異なります(これを「同病異治」と言います)。つまり西洋医学の病名だけをお聞きしても、治療方針は立てられません。問診で詳しく症状を伺って、東洋医学的な診断をする必要があります。そのため、西洋医学では手立てがない場合に力を発揮することもあります。例えば検査では現れない不調の解決策や、病気の手前の未病の改善策や、治療法がない慢性症状の緩和策が見つかることもあります。
SHANTIの鍼灸
- 中医薬大学で「中医学」の基礎を学び、日本の専門学校や伝統的な鍼灸の学会で鍼灸の技術を学びました。西洋医学寄りの鍼灸(多くの場合、局所治療)ではなく、本来の東洋医学的な鍼灸施術を行なっています。
- 中国や一部の日本の鍼灸の様に沢山の鍼を使わず、日本人に適したソフトで体への負担を最小限に抑えた方法(1〜3本程度の少数鍼または刺激のない鍼)で全身の調整を行います。1回の治療は問診などの東洋医学的な診断を含めて30分前後で、治療頻度は施術者にお尋ねください。
- 髪の毛の太さほどの刺す鍼(毫鍼)と灸は事前にご希望を伺い、希望されない場合は、全く刺激のない刺さない鍼(鍉鍼・打鍼・古代鍼)や、鍼の代わりに指を使って行う指鍼(ししん/ゆびはり)を使います。
- 他の中医学治療と併用される場合、SHANTIの中医学的見解や治療法を記したreferral letter(紹介状)の作成も可能です。
- 医療通訳養成講習、学術総会、論文などから、西洋医学の知識も常時アップデートしています。病院の検査データやお薬手帳などを持参いただきましたら、その情報も参考にさせていただき、可能な限り病院での治療の邪魔にならない様な施術の組み立てをさせていただきます。万が一、お役に立てない場合や、治療方針が全く合わない他の療法(西洋医学以外のものも含む)を実践されている場合は、施術をお断りする場合があります。ご了承ください。
WHO(世界保健機構)が定める鍼灸の適応症
頭痛 | 偏頭痛 | 三叉神経痛 | 顔面神経麻痺 |
メニエール氏病 | 白内障 | 急性結膜炎 | 近視 |
中心性網膜炎 | 急性上顎洞炎 | 急性鼻炎 | 感冒 |
急性扁桃炎 | 歯痛 | 抜歯後疼痛 | 歯肉炎 |
急性咽頭炎 | 急性気管支炎 | 気管支喘息 | 食道・噴門痙攣 |
しゃっくり | 急性・慢性胃炎 | 胃酸過多症 | 胃下垂 |
麻痺性イレウス | 慢性・急性十二指腸潰瘍 | 急性・慢性腸炎 | 便秘 |
下痢 | 急性細菌性下痢 | 打撲による麻痺 | 末梢神経系疾患 |
多発性筋炎 | 神経性膀胱障害 | 肋間神経痛 | 頚腕症候群 |
坐骨神経痛 | 腰痛 | 関節炎 | 夜尿症 |
鍼灸に関するQ&A
Q: 鍼は痛くないですか?
A: 基本的に鍼の痛みはほとんどありません。通常、刺入する鍼は髪の毛ほどの太さで、鍼管という筒を使用したり、特殊な刺し方で患者さんの耐性に合わせて刺入時の刺激・痛みを調節します。刺さない鍼(鍉鍼や古代鍼)と平らな表面をお腹などにあてて槌で叩いてひびかせる鍼(打鍼)や鍼の代わりに指で経穴(ツボ)を刺激する指鍼(ししん/ゆびはり)で治療することも可能です。万が一痛みがあった場合や不安な時は、遠慮せず施術者にお知らせください。
Q: お灸は熱くないですか?
A: お灸の熱さは、患者さんの耐性と症状に合わせて調節します。主に皮膚から離したところで使う棒灸や熱さを感じたら取り除くという方法(知熱灸)を用いますので、「心地よい」と感じられる方が大半です。
Q: お灸で熱傷(やけど)の痕は残らないのでしょうか?
A: 1週間以内に消える程度の痕が残る方法もありますが、残らない方法もあります。症状により適した方法はありますが、特にご希望がある場合は施術者にご相談ください。
Q: 鍼は清潔ですか? 消毒などはきちんとされていますか? 感染の可能性はありませんか?
A: 刺入する鍼はすべてディスポーザブル(使い捨て)で、一回ごとに廃棄します。
Q: 鍼灸の副作用はないのですか?
A: 基本的に副作用というものはありません。体質・体調により適切な刺激量があり、それを超えた場合は治療後に倦怠感(だるさ)を生じることがあります。通常、数時間程度でもどります。また好転反応(めんげん)などと言って、良い方向へ向かう際に一旦症状が強く現れる場合があります。いずれの場合も、次回施術前に必ず施術者にお知らせください。刺激量を調節します。
但し、診断や治療を間違えると副作用ではなく、不調をきたす場合があります。これは誤治(ごち)といって、絶対に避けるべきことです。東洋医学では問診を非常に大切にしますので、誤治を避けるためにも正直に情報を提供していただくことが大切です。頂いた不調に関する情報や個人情報は守秘義務により、固く守られます。
Q: 施術を受けた後、お風呂に入ってはいけないですか?
A: 施術を受けた直後は入浴もシャワーもさけてください。可能であれば施術当日は入浴とシャワーを控えていただけると良いですが、難しい場合はシャワーで済ませてください。翌日以降は、特に施術者から指示がない限り通常通りで構いません。
Q: 病院で治療中や投薬中に鍼灸を受けても大丈夫ですか?
A: 病気により、西洋医学と鍼灸治療を併用することで、より高い効果が見込まれるものがあります。東洋医学(や他の療法)と西洋医学との統合という考え方も欧米(=統合医療)・中国(=中西合作)などで積極的に行われています。治療中の方や薬を服用中の方は施術者にお知らせください。検査データなどを持参していただきますと、その情報も加味して施術方針を組み立てます。
Q: 食前・食後すぐに施術を受けても問題ありませんか?
A: 施術の前後1時間以上空けて、軽めにお食事をお取りいただくのがお薦めです。施術で活性化したお身体が積極的に飲食物の消化をするように働き、症状改善の程度が少なくなることがあります。また施術後の飲酒は「酔っ払いにくい」という方が多いのですが、飲み過ぎにつながる恐れがありますので、お控えください。