一生治らない・・・もう1つの糖尿病といわれる「Ⅰ型糖尿病」って知っていますか?
この病気を「治る」ものに変えようとしている、日本IDDMネットワークのシンポジウムに行ってきました。
講演内容は以下の通りでした。行きたくても行けなかった方や、その講演の情報が得られなかった方の参考になればと思ってメモや頂いた資料から転載します。私自身が専門外である為、自分の勉強を兼ねて必要な説明を加える為に、ウェブサイトからも引用し、引用元のリンクを記述しておきます。私の聞き間違い等が有るかもしれませんので、ご容赦の上ご参考程度にご覧下さい。もし関係者の方がご覧下さり、何か問題や間違い等がございましたら、お知らせ頂ければ幸いです。
①膵島移植からバイオ人工膵島へ 松本 慎一先生
糖尿病は、血糖値が慢性的に高い病気ですが、インスリンという血糖値を下げるホルモンが不足していることが主な原因です。そして、このインスリンを出す唯 一の細胞が膵島細胞なのです。
膵臓移植は、この膵島細胞を補うために膵臓という臓器をそのまま移植します。
膵島移植は、膵臓から特殊な技術を用いてインス リン産生細胞である膵島細胞だけを取り出して点滴の要領で肝臓の血流にのせて移植します。
このように、膵島細胞を補うことでインスリン分泌不足を解消し、 糖尿病を根本的に治してしまおうというのが、膵臓および膵島移植なのです。膵臓移植が大掛かりな手術が必要なことから、最近では点滴で移植ができる膵島移植の研究や臨床応用が世界的に盛んとなっています。
http://japan-iddm.net/medical-information/cutting-edge-medical-technology/islet-transplant/magazine1/
最近、欧米では膵島移植後5年間インスリン注射が不要になっていて、機能が低下しても追加移植が可能です。
この問題点は、以下の通りです。
1)膵島を膵臓から分離するのが難しく、約半分失敗
2)複数回の移植が必要
3)免疫抑制剤を飲み続ける必要がある
4)インスリン離脱は長期間続かない(血糖値の安定は長期持続)
ベイラープロトコール(ダラス、ベイラー大学)の活用により
・安定した膵島分離(膵島摘出や分離法の最適化)
・1度の移植でのインスリン離脱
・副作用が少ない免疫抑制剤(ラパマイシンを使わない)
自己免疫反応が強い人は、移植が長期間機能し辛いことがわかってきました。
保険適用については、膵臓の単独移植は適用されるが、膵島移植はまだ適用外です。
日本膵・膵島移植研究会によると、移植に関するコストは最初の二年は1600万円で、高額になってしまう理由は移植は3回行うことと、免疫抑制も高額であることです。
そこで、豚のバイオ人工膵島の研究が進められていて、大塚製薬も乗り出して商品化を目指しています。そもそもは、ロバートエリオット教授が、ニュージーランドのオークランド島の豚は世界で最も病原体が少ないことからこれを利用し、カプセル化した豚の膵島を作ったのが始まりです。
(今回のものでは有りませんが、松本先生の今回の講演に類似する詳しい資料を見つけました。ご参考までに。)
②DNAワクチン治療 中神 啓徳先生
1型糖尿病は、遺伝や環境要因等によって免疫システムに誤ったスイッチが入ってしまうことにより、インスリンを生成・分泌する膵臓のβ(ベータ)細胞が攻撃・破壊されてしまう一種の自己免疫疾患です。
これに対する治療法として、糖尿病ワクチンが色々な施設で開発されています。
これは間違って作動してしまっている免疫反応をワクチンによって整えて、膵臓のベータ細胞への攻撃を断ち切ることを目的としています。(講演概要パンフレットからの転載)
そもそも免疫には、免疫寛容といって、自分を攻撃しなしくみが有ります。
ワクチンは、この免疫寛容や免疫システムを利用して、特定の抗原に対して免疫を獲得するためのものです。
DNAワクチンはアジュバントを必要としないことと、T細胞活性化作用が強いことが特徴です。
遺伝子治療は、日本は残念ながら後進国といわざるを得ません。1位はアメリカです。
③iPS細胞による再生医療 長船 健二先生
1型糖尿病に対する膵島移植の有用性が示されていますが、深刻なドナー臓器不足の問題が依然存在しています。その解決策の一つとして、無限の増殖能と全身の細胞種への多分化能を有するiPS細胞(人工多能性幹細胞)から移植に使用可能な膵β細胞を作製する研究が盛んに行われています。また、難治性疾患の患者体細胞よりiPS細胞を作製し、その病気で障害される細胞種へ分化させることによって病態を再現する疾患モデルを作製し、病態解析を行う疾患モデル作製研究が注目されています。(講演概要パンフレットからの転載)
長船先生は元々腎臓がご専門だったようですが、今は腎臓と膵臓の研究をされています。
iPS(幹細胞の一つ)は、2つの性質が有ります。それは、自己複製と分化能です。
多能性幹細胞とは、ES(iPSの原形)とiPSとがあり、ESの問題をiPSは解決しました。
その問題とは、以下の通りです。
・拒絶反応(他人の受精卵から作られるから)
・ヒト受精卵の使用(「殺人」ととられることも)
iPSの研究の現状について、神経や心臓、血液等は10年以内に使用可能になると思われるが、それ以外はまだまだ難しい。
内肺葉(8〜90%)→膵前駆細胞(5〜60%)→β細胞(10%) が現状です。
現時点における問題点は、以下の通りです。
1.グルコース応答性が無い(つまり、血糖値を下げなければ!という働きを、行ってくれない)
2.確率がまだまだ低い
iPS細胞を用いて、培養皿の上で病気(病態形成)を再現して、メカニズムを調べたり、薬を作ることに応用することも視野に入れています。
講演後のサイエンスカフェにて、面白いお話が聞けました。
それは、iPS細胞がβ細胞になる確率が低いことや、その働きが不完全なものしか出来ない原因を、その細胞を培養している環境が人体内ではなく培養皿の上だからということはありませんか?という参加者の質問に、その可能性はあるとのお話でした(長船先生と一緒に研究している細川吉弥先生談)。
研究者として、患者さんの希望に応えるべく一生懸命研究していく中で、越えることができない幾多のハードルとどう対峙ししていくか、というご苦労も見えました。
私の理解では、iPSが1型糖尿病の解決策となるまでには、まだ数10年単位の時間が必要になりそうだ、というお話でした。これだけすごい進化を遂げている科学の世界に、さらなる奇跡が起こることを、願い続けようと思いました。
専務理事でもあるエアロビック日本代表の、大村詠一選手のお話は、涙なしには聞けませんでした。
1型糖尿病の患者さんの気持ちが、ほんの少しですが理解出来たと思います。
サロンのお客様が、この病気と闘っていらっしゃることがきっかけで、このシンポジウムに伺いました。
私に出来ることは、ほんの小さなこと位しか無いかもしれませんが、出来ることを頑張り続けたいと思いました。
本当に貴重な時間を頂きましたことを、お客様そしてシンポジウム関係者の皆さん全てに感謝したいと思います。
ありがとうございました!!!