●ドライニードルとトリガーポイント、それらと鍼灸との関係●

ドライニードル治療(DN)=ドライ・ニードリングって知っていますか?
ペインクリニック技法から派生した「西洋鍼治療」で、解剖生理学に基づくとされ、欧米で普及しつつあるものです。概要を整理しますと以下の通りです。
・ドライニードル治療(ドライ・ニードリング):痛みの緩和が得意。西洋医学的に筋肉や筋膜など「トリガーポイント」をターゲットに施術。イギリスとアメリカ(州によって)では理学療法士も施術するが、一般的には鍼灸師、医師が行う(日本もそう)。鎮痛薬などの液体を使用しないことから「ドライ」と呼ばれるようになった。
・(一般的な)鍼治療:2000年以上続く経験に基づく経絡理論や経穴(ツボ)、あるいは気の概念を用いる。体のさまざまな領域に影響を与える可能性がある(例えば消化器系、循環系、免疫系)。体全体に直接刺激する必要なく体全体を治療する。ストレスを解消し、不安を軽減し、睡眠を改善するのに役立つ。古代から伝わるドライニードル治療に似た手法で、痛みの緩和や運動器疾患を得意とするものを「経筋治療」という。
以下に時系列で詳細を整理しました。


1940年代:欧米で薬物等の液体を注射しなくても注射針を刺しただけで鎮痛効果があることが報告され、このことをPaulettが1947年にドライ・ニードリングという言葉で初めて表現したとされる(薬液を使用しないから、乾いた「ドライ」)。
1950年代:筋筋膜トリガーポイントに対して用いると有効ということでドライ・ニードリングという言葉が定着したが、当時は鍼灸針ではなく皮下注射針が使われていた。
1980年頃:ドライ・ニードリングに鍼灸針が使われるようになった。安全で出血や内出血が少なかった為。
2000年代:ドライ・ニードリングに鍼灸針が広く用いられるようになった。果たしてこれは鍼治療なのか、それとも鍼灸針を用いる鍼治療とは異なる治療なのかということが問題になった。ドライ・ニードリングを行う人たち(主に理学療法士)は、彼らが刺鍼するのは経穴(ツボ)ではなく筋筋膜トリガーポイントであると主張している。
米国理学療法士協会(APTA)は、ドライ・ニードリングについて「投薬や注射のためではない”ドライ”な針を皮膚を貫通して筋のトリガーポイントに挿入する、理学療法士が筋筋膜痛を治療するために行う(州法によって許可されている)テクニック」と説明。「ドライ・ニードリングは伝統中国医学にもとづいて鍼灸師が行う鍼治療ではなく、現代西洋医学の一部」と言い切っています。
2017年:ニュージャージー州の地方紙のニュースサイトー2017.03.15 The Record(ザ・レコード)に、「鍼治療は鍼灸師が行うが、ドライニードルは誰が行うのかと」いう記事が掲載された。ニュージャージー州の東洋医学鍼灸師会のジェイソン・サルギス会長は鍼灸師のみが鍼を用いるべきだと主張。当然、理学療法士は激しく反発。2006年に始められた議論は、紛糾してきた。
2018年:紛糾してきた議論にようやく以下の結論が出た。
After years of debate, the New Jersey Attorney General’s Office recently ruled that physical therapists cannot perform intramuscular stimulation or dry needling with acupuncture needles, the release stated.
要点◆何年もの議論の末、ニュージャージー州検事総長室が出した結論は、理学療法士は鍼やドライニードルを用いる治療はできないとするもの。
アメリカでは州によって法律が違う。理学療法士の業務範囲にドライニードルを含むと多くの州で認めているが、7つの州では認めていなかったので、それにニュージャージー州が加わることになった。
*日本では、理学療法士はドライニードルを含む鍼の施術はできない(鍼灸師か医師のみ可)。
日本では、経絡や経穴(ツボ)のことをまったく無視して凝った筋や痛いところに刺鍼したり、現代医学的な考えにもとづいて筋や神経をターゲットに刺鍼したりする場合も鍼治療と呼んでいる。それに対しAPTAは、経絡理論や経穴、あるいは気の概念を用いることこそがacupuncture(鍼治療)であり、それらの理論や概念を用いないで西洋医学的な発想でトリガーポイントに刺すならば鍼治療ではなくドライ・ニードリングであると主張する。ちなみにトリガーポイントと経穴はかなりの頻度で一致するという意見がある。鍼治療の中で運動器疾患や筋腱などの痛みに対応する「経筋治療」というものもある。
一方、イギリスを中心とした鍼治療を行う医師のグループは、生物医学的な知識にもとづいておこなう鍼治療のことを西洋医学的鍼治療(Western medical acupuncture)と呼んでいて、そこにはトリガーポイント刺鍼も含まれるとしている。(ドライ・ニードリングは鍼治療に含まれるというスタンス)
米国では現在、医師や鍼灸師の免許を持たない多くの理学療法士その他の医療職がドライ・ニードリングを行っている 。この治療が鍼治療であれば法律違反だが、鍼治療とは異なる「ドライ・ニードリング」という理学療法の一手法であれば合法ということになる。ただ、ドライ・ニードリングを行う理学療法士その他の医療職で医師や鍼灸師の資格を持っていない者は、鍼灸学校で教わるような体系的で徹底した刺鍼教育を教わっていないので、患者のリスクが高まるのではないかと懸念する声がある。しかし実際は、臨床や科学とは関係のない、むしろ生計に関わる問題かもしれない。
アメリカで激しく議論されている理由は「慢性疼痛」治療の権益にあるように思う。
アメリカ・インディアナ州の地方ニュースー2018.6.15 KLFYによると、長く続く痛み「慢性疼痛」は何百万人ものアメリカ人に影響を及ぼし、多くがオピオイド(麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類の総称)系鎮痛剤に頼っているのが現状。 しかし一部の患者は、鍼治療のような代替医療に目を向けている。 一部とはいえ何百人もいる慢性疼痛患者の治療に当たれるかどうかは理学療法士にとっても鍼灸師にとっても、一大事と言える。
鍼治療は痛みのみならず「体のさまざまな部位が体のさまざまな領域に影響を与える可能性がある(例えば消化器系、循環系、免疫系)」と同州の近代鍼灸師のスチュワート・ソマーズ医師は語っている。
「体全体にアクセスする必要なく体全体を治療することができる」「その小さな感覚は、身体がストレスを解消し、不安を軽減し、睡眠を改善するのに役立つ」と鍼灸師Dewaynia Wilson氏は述べている。
ちなみに英国ではこのような論争は起こっていない。なぜなら、理学療法士が鍼治療を行ってきた歴史があり、わざわざドライ・ニードリングと呼ばなくても堂々と鍼治療ができるから。
参照元ページ
http://mumsaic.jp/news/index.php?c=topics_view&pk=1476093034
http://shinkyu-net.jp/archives/1632
https://www.klfy.com/news/local/acupuncture-helps-patients-with-chronic-pain/1219332607

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