●風邪薬は対症療法?!
風邪をひいたら風邪薬、と思っている方も多いと思います。
実はこれはあまり正しくありません…。
一般的な風邪薬というのは、総合感冒薬といって、発熱、頭痛、咳、くしゃみ、のどの痛み、鼻水、鼻づまり、関節・筋肉の痛みなどの普通感冒の諸症状を緩和するのが目的であり、風邪が治るわけではありません。いわゆる「対症療法」と言われる症状を抑えるだけのもので、原因治療ではないのです。
2007年のInternal Medicine(日本内科学会機関誌)には、抗炎症薬は風邪症状を軽減するかもしれないが、早く治すどころかむしろ治りが遅くなる可能性があるという研究が掲載されています。
薬で
・重い風邪の症状は三日間で軽減
・活動を制限した日数が2.7日から2.1 日に減り
・症状がすべてなくなるまでの期間が、8.4 日から8.9 日に増えた
風邪というのは、そもそも風邪ウィルスというのがあるのではなく、風邪症状を引き起こす様々なウィルスや、場合によっては細菌によるものもあるのです。
普通感冒の出た状態を、風邪症候群と言うのです。
ちなみに風邪で処方されるお薬の代表は「抗生物質」ですが、近年厚労省からこのような発表があります。お薬使用の可否はもしかすると、「症状を抑える必要性」と「自分の免疫力を守る」ことのどちらを優先するかという選択かもしれませんね。
●東洋医学的養生法
原因であるウィルスや細菌をやっつけるのは、結局は自分の身体の自然治癒力(免疫力)なんです。
治すのに大事なことは、
・十分な休養
→ウィルスをやっつけてくれる免疫にエネルギーを集中するために、余計なことには使わないようにします。
・しっかり栄養補給
→
風邪をひくと、食欲が落ちる場合がほとんどですが、エネルギーがないと話になりません。のどを通りそうなものと水分をしっかりとって下さい。どうしても食べたくない時は、経口保水液やスポーツドリンクがオススメです。
・お風呂→
微熱程度であれば、湯冷めに気をつけシャワーで身体を清潔にして、しっかり寝てくださいね。38度を超えるような高熱(わきの下や内腿などを同時に冷やすのが効果的)でない限り、特に冷やす必要はありません。これはウィルスを退治するために熱が出ているのです。
おでこを冷やすのは気持ちいいので、精神的に楽になるかもしれません。大切なのは温かくして汗を出して、衣類がぬれたらすぐ着替えることです。
●「風邪に葛根湯」は本当?
東洋医学は中国大陸で生まれ発達し、日本に伝えられ、西洋医学が入ってくるまでは日本の主流医学でした(西洋医学が主流となったのは明治16年、明治政府が西洋医学を正規医療として普及させる制作をとってから)。「漢方」と言う呼称は、江戸時代にオランダ医学と区別するために使われたもので、基本的には「漢民族の伝統医学」と言う意味だそうです(中国では「漢方」と言う呼称は無く、「中薬」「中医学」などといいます)。その漢方が、最近ではよく西洋医学の病気(病名)に対して活用されていますが、本来別の医学ですので「翻訳がうまく行っていない」、つまり「正しく使われていない」ということが時々あるようです。それはなぜか、少し詳しく解説してみます。
西洋医学の病名は、治らない限り同じ病名、同じ病気に対する治療と言う枠の中で進められますので、「ある病気の全課程を示した恒常的なもの」といえます。
一方、東洋医学では、主な訴え、症状の組み合わせ、東洋医学の病気の理論に基づいて「証」を決定します。「体質、その時期の病気の状態(進行度合い)を加味して決定した病名」=「証」に合わせた治療方針を決定します(これを「弁証論治」といいます)。
具体例を挙げますと、西洋医学でいう肺炎の場合、
痰の色が①白→②黄色へ、そして咳が③空咳
のように症状が変化しても同じ「肺炎」として治療を行います。
「肺炎」に漢方を使った場合は「東洋医学を実践した」わけではなく、正しくは「漢方を使って西洋医学を実践した」ことになります。
東洋医学では、
①痰の色が白:肺に痰湿が溜る(肺痰湿証)→②黄色い痰:肺の痰に熱が加わった(肺湿熱/肺痰熱証)→③空咳:肺の水分が不足(肺陰虚症)
と症状の変化に伴って「証」も変わり、それに伴って治療方法(使うツボや漢方薬)が変わります。
これが「漢方を使って東洋医学を実践した」ことになります。
他の病気でも同じで、西洋医学の病名にそのまま漢方薬が使えない(使った場合は東洋医学を実践したことにはならない=本来の漢方の使い方とは違う)のはこの為です。
では、東洋医学では葛根湯はどのような時につかうかといいますと、「表寒症」といい、体表面に「寒邪」(冷やすもの)が停滞している時です。この時期(秋)に、薄着で出かけてしまって思ったより寒かった・・・などと言う時、体表面を触ると冷たかったり、背中がゾクゾクしたりしませんか?こんなときの風邪に使います。
同じく、寒さを受けた後に首や肩周りがしんどい・・・そんな時の肩こりにも使えます。
つまり、「風邪」の薬ではなく、「表寒症」の薬ですので、「肩こり」にも使えたりします。
一方、ゾクゾクした後に寒さを感じにくくなる、つまり熱が出始める・・・といった時はもう葛根湯の適応ではありません。こじらせる場合がありますので葛根湯は使わず、熱を除く柴胡(さいこ)や板藍根(ばんらんこん)などを使います。ここまでは鍼灸や推拿でも、比較的簡単に処置ができます。
これ以上進むと次は風邪の6段階(六経弁証)中の2段階目に入り、東洋医学では「半表半裏証=少陽病」といって発熱で治せる最後のチャンスとなります。つまり「自宅で安静にして、温かくして熱を汗とともに出す」ことで治せる最後のタイミングです。これを過ぎると病邪は少し深いところにありますので、セルフケアだけでは難しく、鍼灸、推拿、漢方を持ってしても少し時間、回数がかかります(回数、時間は施術者の技術と、受け手の体力、養生によって異なります)。
中医学の古い言い習わしで、「良い医者は未病を治す」といいます。未だ病まず=病気にかかる手前で治すのが最も治りやすく、体に負担が少ないからです。体の小さな変化に目を向け、素早い対処を心がけて下さいね!
アスリートの方でドーピング検査があるなど、薬を飲まずになんとかしたい方は、お気軽にご相談下さい。 info@shanti-ctm.com まで
参考文献:
「東洋医学を知っていますか」三浦於菟
「図説東洋医学基礎編」山田光胤 代田文彦